糖尿病は治る?治らない?最新の知見を紐解く~iPS細胞への期待~

日本人の6人に1人が糖尿病や糖尿病予備軍と言われています。
糖尿病になると生涯にわたって治療をしなければなりませんが、それは本当なのでしょうか?
本記事では患者さんやご家族が気になる糖尿病は「治る?」「治らない?」に着目し解説します。
なお本記事は2022年7月時点での知見です。あらかじめご了承ください。

糖尿病は治るの?

医学が進歩しさまざまな薬や治療方法が誕生しても、いまだ糖尿病は自然に治る病気ではありません。
食事や生活習慣を改善し、内服や注射による薬物治療を併用して血糖値やHbA1cを目標範囲内にコントロールします。

糖尿病治療は「食事療法・運動療法・薬物療法」の3本柱が重要です。
リンク

3つの治療方法をうまく組み合わせ、うまく付き合うのが糖尿病治療なのです。

糖尿病は「治る」「治らない」という概念がない病気

残念ですが糖尿病は治りません。けれども、治らないという風にも言いません。
それだけ聞くと、屁理屈や言葉遊びのように聞こえるかもしれませんね。

生活習慣に気をつけて血糖値やHbA1cが正常範囲内になったとしても、一度でも糖尿病を発症した患者さんは「糖尿病になりやすい状態」に代わりはありません。
生活習慣の乱れや加齢に伴う膵臓の機能の低下などさまざまな原因で、血糖値やHbA1cが正常範囲を逸脱し糖尿病に戻ってしまう可能性が高いのです。
いまは糖尿病の状態ではないけど、いつ糖尿病になってもおかしくない。
それが糖尿病の実態なのです。

よく耳にする「糖尿病が治った」って本当?

「自分は糖尿病が治った」と話す人に会ったり、記事を読んだりした経験があるかもしれません。
いわゆる「糖尿病が治った」とは生活習慣や運動習慣を改善し、血糖値やHbA1cが正常範囲内になった状態です。
採血データでは、糖尿病の診断基準を満たしていないため内服が不要となり糖尿病が治ったと勘違いしてしまうのです。
また糖尿病が治ったと話す患者さんは、定期的に通院していない傾向があります。
定期的に通院していなければ血糖値やHbA1cは調べていません。
そのため生活習慣が乱れれば血糖値やHbA1cが上昇し、糖尿病の診断基準を満たしている可能性は十分考えられます。
一時期は良かったとしても「今も糖尿病が治っている」のかは、正直なところよくわからないのです。

糖尿病が治る未来

近年、医療の進歩は目覚ましいものがあります。遺伝子や自己免疫疾患が原因で起こる糖尿病もあることが明らかになっています。
さらに、新しい血糖値をコントロールする薬(GLP-1:glucagon-like peptide-1受容体作動薬)や、血糖測定の負担を減らす機械(CGM:Continuous Glucose Monitoring)など10年前比べ物にならないくらい、糖尿病治療の選択肢は多様化しました。
「糖尿病が治るかもしれない」と世界中が注目している治療方法があります。
それは「再生医療」です。
ここからは再生医療とはどのようなものなのか、糖尿病患者への適応や期待される効果を2022年7月時点で公表されている世界中の論文を紐解きながらわかりやすく解説します。

再生医療とは?

再生医療では細胞を培養し、増殖した細胞を体内に戻します。
増殖した細胞は傷ついた臓器や組織の自己再生能力を活性化させ、失われた機能を回復させるのです。
再生医療には「幹細胞」を用います。幹細胞には細胞自身を修復したり、他の細胞に変化したりする他の細胞にはない働きがあります。

幹細胞は次の2つに分類されます。
①多能性幹細胞
②組織幹細胞
それぞれの特徴を解説します。

①多能性幹細胞


ES細胞やiPS細胞は多能性幹細胞の一種で、人工的に作る幹細胞のことです。
ES細胞は受精卵の一部を体外に取り出し増殖します。
iPS細胞は成熟した細胞に特定の遺伝子を入れて、細胞を未熟な状態に逆戻りさせ増殖させます。
どちらも、未熟な幹細胞であり体のさまざまな細胞に進化できるのです。

ヒトiPS細胞をインスリン分泌能力のある膵β細胞に進化・増殖するために、世界中でさまざまな研究が行われています。

東京大学などの研究グループでは、ヒトiPS細胞から作ったインスリンを分泌する臓器をカプセル化し体内に移植する研究を行っています。
2021年の報告では糖尿病のマウスの血糖値を最大6か月以上正常化できています。
まだまだマウスでの研究段階ですが、インスリン分泌ができなくなった膵臓を元に戻せる可能性があるのです。

さらにアメリカの企業が、幹細胞から膵臓の膵島細胞を作り膵臓の働きを再生させる臨床試験を開始しました。
世界でも初めての幹細胞由来療法で、1型糖尿病を完治させる新たな治療方法として注目を集めています。
臨床試験結果の報告はもう少しかかりそうですが、新たな治療方法の誕生は遠くなさそうです。

②組織幹細胞

ES細胞やiPS細胞とは異なり、自分の体の中に存在する幹細胞です。
白血病の骨髄移植に用いられる造血幹細胞や、心筋シートなどへの応用が期待される骨髄幹細胞、脂肪幹細胞や歯幹細胞など多種多様な組織幹細胞があります。

糖尿病患者への組織幹細胞移植は実際に一部のクリニックで行われています。
脂肪細胞を採取し増殖したものを点滴で体内に戻し、傷んだ臓器や組織を修復させるのです。
治療のメリット・デメリットは以下です。

メリット デメリット
・自分の組織幹細胞を移植するため拒絶反応が起こりにくい
・2型糖尿病患者に効果が期待できる
・厚生労働省から認可された医療機関でのみ実施できる
・糖尿病患者への効果・予後・副作用については研究段階でわからない点が多い
・費用が高額(自費診療)
・全国的に実施できる施設が少ない

組織幹細胞治療に関しては注意すべき点があります。
治療を受けたからといって、二度と糖尿病にならない訳ではありません。
治療適応である2型糖尿病は食事や生活習慣で発症リスクが高くなる病気です。
暴飲暴食など乱れた生活をしていると糖尿病が再発する可能性があります。
治療後も食事や生活習慣に注意する必要があるのです。

糖尿病と上手く付き合う生き方が大切

糖尿病は治る、治らないの概念がない病気です。
血糖値やHbA1cを目標値内にコントロールできる食生活や生活習慣を身につけ、上手く付き合っていくことが重要です。
糖尿病と上手く付き合っていけば、薬を減らしたり医療費を抑えたりもできます。医師・看護師・栄養士 ・薬剤師のサポートを受けながら、糖尿病と上手く付き合っていきたいですね。

本コラムでは、糖尿病の基礎知識や治療・日常生活・医療費など、糖尿病と診断された患者さんやご家族の役立つ情報を発信しています。ぜひ、そのほかの記事もご参照ください。

参考文献

1)Fumisato Ozaw VOLUME 24, ISSUE 4, 102309, APRIL 23, 2021 Lotus-root-shaped cell-encapsu lated construct as a retrieval graft for long-term transplantation of human iPSC-derived β-cells
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(21)00277-7

2)Vertex Announces FDA Fast Track Designation and Initiation of a Phase 1/2 Clinical Trial for VX-880, a Novel Investigational Cell Therapy for the Treatment of Type 1 Diabetes
https://news.vrtx.com/news-releases/news-release-details/vertex-announces-fda-fast-track-designation-and-initiation-phase

3)再生医療 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html

糖尿病保険の詳細を確認する

こちらの記事もおすすめです

当サイトでは、弊社が取扱う損害保険会社および生命保険会社の各種商品の概要について解説し、ご紹介しております。

この保険商品一覧に記載されている内容は、条件等により適用されない場合があります。

保障内容・保険料等の保険商品の詳細につきましては、必ず各保険会社が提供する契約概要やパンフレット等、をお取り寄せいただき、「注意喚起情報」「ご契約のしおり・約款」「特別勘定のしおり」等、または保険会社のWEBサイトをインターネットで必ずご確認ください。

  • 取扱・募集代理店 株式会社エレメント
  • 〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-16-10 渋谷DTビル 7F
  • 電話番号 03-5428-6601